私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「潜水服は蝶の夢を見る」

2008-02-24 18:23:14 | 映画(さ行)

2007年度作品。フランス=アメリカ映画。
ジャン=ドミニクは3人の子供の父親。ELLE誌編集長として華やかな人生を送っていたが、ある日突然倒れて身体が動かなくなる。唯一動くのは左目のみ。そしてその20万回以上の瞬きで、彼は自伝を書き上げる。
2007年カンヌ国際映画祭監督賞ほか、多数の映画祭で受賞。
監督は「夜になるまえに」のジュリアン・シュナーベル。
出演は「ミュンヘン」のマチュー・アマルリック。「赤い航路」のエマニュエル・セニエ ら。


思考は明晰なのに体の自由が利かない。その設定を聞くだけでもそこにある絶望は想像するに余りあるだろう。ついこのあいだまで健康だと思っていた自分の姿が、急に動かなくなったと考えるだけで非常に恐ろしいし、そんな自分の姿をみたくないと思うのは、そして死にたいと考えるのは、心情としては自然なことだ。
その状況を少しにじんだ感じの映像を使い、うまく表現しているのが印象深い。その臨場感ある映像に、観客である僕も主人公と一体になったような気分で見ることができる。
それだけに主人公の感情に寄り添うように映画を楽しむことができた。

そんな自分の体にロックインされた主人公が自分自身と向き合い、まぶたしか動かせない状況で自伝を書こうと試みる姿には人間の可能性を見る思いがする。
自伝を描きながら自分の罪悪感や、過去と向き合う時間が彼の人生の最後に与えられたのは、よいことなのか悪いことなのかはわからない。
しかし彼が懸命に生きている証しがその時間の中に濃密に凝縮されているのが伝わってきて、どこか感動的であった。

そしてそんな不幸を乗り越えられたのは多くの人間が彼を支えてくれたからだ。それも彼の人徳によるものだろう。言語療法士や自伝執筆を手伝う女性、友人、家族の存在が、傷付いた彼を支えていく姿を見ていると、非常に麗しく温かい気分に浸ることができる。
特に父との会話は感動的だ。互いの運命を嘆く姿は普遍的な親子の情愛が流れていて、胸を打つものがあった。

しかしそのように悲劇的な主人公を描きながら、決して受難者のように描いているわけでないところも興味深い。
女好きらしい視線の動きはもちろん、そのほかにも生身の人間らしい部分を描いている。特に妻を介した愛人との会話は実にえぐい。しかしそれこそ、主人公の人間性をよく伝えていると言えるだろう。
安っぽいお涙頂戴に流れることなく、人間を描ききった作り手の誠意に敬服する思いだ。

主人公は自伝発表後、まもなく亡くなっているが、人生の最後を懸命に生き抜いたその姿には素直に感動できる。人間の可能性について思いを馳せることができる優れた一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想:
・マチュー・アマルリック出演作
 「ミュンヘン」

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2 コメント

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Unknown (ぐみご)
2009-02-04 08:59:21
『潜水服は蝶の夢を見る』見ました~。

これ、めっちゃいい映画ですね~。実際にはすごく精神的にきつかったと思うけど、悲観的にならずユーモアたっぷりに描いてあるのが良かった。主人公の視点からまわりの状況が見えるのも新鮮だった。

なんかいろいろ考えさせられました。今後も何かにつてけて、この映画のことを思い出しそう。全身が麻痺した後も続く人生か。。命って、きっと私が思ってる以上に強くて豊かなんだろうなぁ。


あ! あとで思い出したんですが『ノーカントリー』はちょっとターミネーターっぽかった気がする! 殺人者=シュワちゃん、って感じで。見てる分には、ドキドキしておもしろいんだけど、あの執拗な追っかけがリアリティを損なったんじゃなかろうか?
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Unknown (qwer0987)
2009-02-04 20:59:03
そう、これはいい映画ですよ、本当に。残酷なはずなのに、どこかポジティブなのが特にいい!
こういう映画を見ると、自分だったらどうかって、考えるんですよね。自分の体が動けなくなったとき、何を思って、何ができるんだろうって。
でも、そういう立場になったら、健康な状態で、うだうだ考えている以上のことを、意外にできるかも、なんて思ったりします。命って確かに強くて豊かで、時々は図太かったりしますし。

『ノーカントリー』がターミネーターは目から鱗。おもしろいです、その意見。うーん、それがリアリティを損なったと言われれば、そうも言えますね。
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